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「ふっ、フザケールナー!!」
がっしゃーん、と小道具を詰め込んだ段ボール箱を盛大にぶちまけながらアルトは怒鳴った。 悲痛な叫びである。今にも血を吐きそうだ。 ドレスを脱ぎ散らかしてTシャツとパンツというみっともない格好を晒しながら暴れるアルトをミシェルは避難するように少し離れた場所からそっと見ていた。 「あー。怒ってる怒ってる」 「あったりまえじゃない!あの決闘をガチでやるっていうから練習してきたのに何よこのオチ」 ミシェルとシェリルは、アルトには内緒で口裏を合わせていた。 それが<決闘で勝ったほうがハッピーエンドを迎える>という、マルチエンドである。 ミシェルが勝った場合とシェリルが勝った場合の2パターンをあらかじめ用意しておいたのだが、もちろんこのことはふたりと脚本を書いたキャシー、そして半ば強引に泣き落としたカナリアしか知らない。荒業もいいところである。 「ルカのあのぼやきは本音が入ってたな」 「いやあれ本音でしょ。アドリブっていうか完全に思ってることを言っちゃった感じ」 それより、と衣装を着たまま小道具の剣をつきつけながらシェリルは詰め寄った。 「あなた何してるの?何勝手にキスなんてしてるのよバカ!」 聞いてないわ、と甲高い声を上げる。 そのあまりの迫力に思わず後ずさるミシェルだったが、何とか踏みとどまりながら眼鏡のフレームをわざとらしく押し上げた。 「いや、俺としてはちゃんとお芝居としての王道パターンを守りつつ、ついでに自分もおいしいところが欲しいなあと思ってだね」 「思ってだね、じゃないわよ!確かにあんたが姫と最終的に結ばれちゃったらフロンティア中から非難轟々なのは分かってるけど!だからってキスしなくたっていいじゃない!あたしだってしてないのに!」 それが本音かい、と苦笑しながら、まだ暴れているアルトを見る。 見かねたルカやランカが止めに入ろうとしているようだが、しばらく手がつけられないだろう。 カナリアのげんこつでも振り下ろされない限り彼の暴走は収まりそうにない。 「でも君がアルト姫の頬にキスをするシーンで使うはずだった衣装、結局直しが間に合わなくてぎりぎりまで使えるか使えないか分からなかっただろう?あの虫、じゃないあいクンだっけ、あいつもやるよなあ。アハハハハ」 責任転嫁で逃れようとしてみたが、無駄だった。 突き出されたつくりものの剣の先っちょでつんつく突付かれる。 「いたっ。ちょ、いたたたたたっ。痛いって女王様!」 「うるさいわね!勝手なことばっかり・・・!」 「いいじゃないか、ラストは感動的なハッピーエンドだっただろ!」 「よくないわよばかー!!」 ひときわ大声で叫ぶと、シェリルはとどめ、とばかりに剣を突き出し、とっさに顔をかばったミシェルは腹を遠慮なく刺されて、そのまま体を二つ折りにしたまま床に転がって動かなくなった。 おおおおおお男にキスをされた、しかも大勢の見ている前で! 赤くなったり青くなったり、しまいには土気色に染まる顔を必死でてのひらでこすりながら、アルトは涙をこらえた。 これでは公開処刑、否、羞恥プレイではないか! 右腕をルカに、左腕をランカにつかまれてようやくアルトは我を取り戻した。 「と、とりあえずズボンはいてください先輩!みんな見てます!」 「るっせえ!あのメガネ野郎に人前でキスされたんだぞ!それに比べたらここでスッポンポンになったほうがまだましだ!」 「ダメですダメです!それはいくらなんてもダメですってば!」 すっぽんぽん、という言葉の響きにランカは頬を赤くしてうつむいた。 「ランカさん、何想像してるんですか」 「し、してないよ!」 思わず冷静に突っ込んだルカに慌てて首を激しく振ると、ランカは肩で息をしているアルトを見上げた。 「あの、ごめんねアルトくん。あい君がシェリルさんの大事な衣装破いちゃったせいでシーンが変わったんだよね!」 「・・・・・・・・・いや違うと思うぞ」 結局シェリルの衣装替えがあろうとなかろうと、ミシェルは好き勝手にやったに違いないのだ。 「あの変態眼鏡野郎・・・」 ぎりぎりと拳を握り締めるアルトを心配そうに見ながら、しかしランカは必死で彼の機嫌をとろうと笑顔を振りまいた。 「でもでも、ラストシーン良かったよ!まるでおとぎ話のエンディングみたい」 「実際おとぎ話のエンディングだったんですけどね」 ぼそりと呟くルカの声は、だがランカには聞こえなかったようだ。 「いいなあウエディングドレス・・・」 女の子の憧れだよね、と言ってから、しまったと顔を上げると、アルトはひどく複雑かつ微妙な表情で、遠い目をしていた。 「結婚前にウエディングドレス着たら婚期が遅れるって言いますけど、アルト先輩は心配ないですよね!」 「・・・・・・・・・・・・そうですね」 ルカのフォローは空回りするばかりであった。 PR |
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