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永遠の愛を誓う相手は神様でも国王でも国民でもなく。
ただ、互いにのみ誓いなさいとトクガワ王は微笑んだ。 心の中で驚愕しながら、表には出さずそっと神父の方を見る。 老齢ではあるがきちんと背の伸びた白髪の神父は、苦笑しながらうなずいた。 ああ、それでは彼が仕事をできないではないか。 ちらりととなりを見ると、細やかな刺繍のされた白いヴェールの向こうでアルト姫がにこりと笑った。 唇を小さく動かして、何かを伝えてくる。 「仕方ないのないお父様ですこと」 シェリル王子は、耐え切れずにしのび笑いを漏らした。 「それでは誓いましょう。アルト姫。私の愛は永遠にあなたに捧ぐと」 「私のすべてを、新しきフロンティアの王に」 トクガワ王以下王家とそれに連なる貴族らの暖かい拍手に包まれながら、ふたりは唇を重ね合わせた。 眼下でしきりに手を振る大勢の民衆たちに手を振り返しながら、アルト姫はとある一角を目にしたところで息を呑んだ。 全身黒の皮服を見につけ、長いマントも黒で、風に揺らぐとたまに濃紺にも見えた。 羽飾りのついた鍔の広い帽子で顔は見えないが、一瞬きらりと光ったのは眼鏡だろう。 (ミシェル) 彼は、こちらの視線に気づいたのか、一瞬顔を上げ、軽く手を振って、背を向けた。 (あ) 何故だか、きっともう二度と会えないのだろう、と姫は思った。 「アルト姫?どうしたのですか」 ふと、笑みの消えた姫の表情をみとめてシェリルがそっと肩を抱く手にわずかに力をこめた。 「いえ、みなが祝福してくれるものですから」 答えにならない応答をして微笑んだ。 「これから忙しくなりますね。戴冠式も控えておりますし、諸外国の大使から謁見の申し出もすでにきております」 「はい」 すでに一年先まで公務の予定がびっしりだった。 婚儀の日、母であるギャラクシー女王は何も言わず、ただそっと息子の頬をひと撫ですると改まって祝福を述べた。 それは、他国の王となるシェリルへの決別だったのだろう。 そんなギャラクシーから、すでに駐在大使を派遣したいとの要請があった。 決断するのもシェリルである。 「戴冠式を終えれば、陛下とお呼びしなければなりませんね」 「あなたはもう姫ではなく、王妃ですね」 呼ばれ慣れない単語に思わず立ち止まるのを忘れることがあるかもしれない。 「ですがふたりだけのときは名前を呼んでください。アルト、と」 「では私のことも」 「おふたりとも」 背後から遠慮がちに声をかけられ同時に振り向くと、やや困惑したような顔でルカが立っていた。 今後も引き続きシェリルの側近として、今度はフロンティア国王に仕える身となる。 「そんなにお互いの顔ばかりご覧になってないで、民衆の方々にちゃんとご挨拶してくださらなくては」 人前で公然といちゃつかないでくださいね、とからかうようにたしなめると。 若き時期フロンティア国王とその妃は、慌てて眼下に手を振り返す任務に戻った。 不自然にならないようにアルトはもう一度、青の騎士を探したが、彼の姿はもうどこにもなかった。 +++++++++++++++++++++++++++++++++ 「なんか、アルトがミシェルに未練あるみたいじゃないこれ」 ああ疲れた、と衣装のベルトをはずしながら、シェリルは唇を尖らせた。 「さすがキャシー、いえグラス中尉。なにげにこれから始まる不倫ドラマへの布石というわけですね」 「んなわけあるか!」 へらへら笑いながら帽子を脱ぐミシェルに、アルトはかっと顔を赤くして怒鳴った。 「どこの世界におとぎ話の続編が不倫物語になる芝居があるんだよ!どこの昼メロだ」 なんだか、自分が(いやアルト姫が、だが)ミシェルに未練があるようなシーンは確かにおかしいだろう、とアルトも思った。 これではまるでヒロインがハッピーエンドに不満を持っているみたいではないか。 「でもでも、すごく良かったよ!エキストラのみんなもたくさんいてすごかったね!」 そのエキストラにまぎれてさかんに拍手を送っていたランカが、可愛らしい町娘のドレスを着たまま頬を紅潮させて言った。 ナナセが、<彼女のためだけに>デザインしたらしい。なんだその贔屓は、とは誰も突っ込まなかった。 事実、可愛かったからである。 (私だってドレス着たかったわ) まあ仕方ないけど、とこっそり胸中で呟いて、にこやかにランカの手を握る。 「ありがとうランカちゃん。一緒に歌った主題歌、最後のエンディングでぼろ泣きした観客も多かったみたいよ」 「はい!シェリルさんと一緒に歌えてすごく嬉しかったです!」 なんだか歌姫ふたりで盛り上がってしまった。 「はい、みんなお疲れ様。打ち上げやるから、着替えて片付けたらエキストラ用控え室に集合ね」 キャシーが両手のひらをぱんぱん叩きながら告げる。 彼女のとなりで酒だ酒だ、ああランカ似合うなそのドレスまるでおまえがヒロインみたいだと、ぶつぶつ言っているオズマが肩をすくめる。 「なあキャシー、軍人やめて小説家やろうなんて本気で思ってるんじゃないだろうな」 「あら、二足のわらじっていうのもいいかと思うのよ」 「いいわけあるか」 「俺はさ、今回はシェリルに譲ったけど、あれは芝居だからだよ」 ウーロン茶を飲みながらミシェルがふと言った。 周囲のテーブルはさながら宴会のようで、誰もまともに人の話を聞いていない。 ちゃんと与えられたテーブルについて飲み食いしているのはふたりだけだった。 さきほどまで一緒におとなしく食事をしていたルカもいない。 「どういう意味だよ」 ああこの北京ダックうまいな、と手づかみで口の中に放り込みながらアルトが隣りを見る。 「いや、別に。ああそれより確かにおまえのウェディングドレス似合ってたなあ」 「うっせぇなあ」 もう忘れろ、と頬を赤らめて北京ダックを飲み下す。 おまえの騎士の姿も、それなりにいけてたぜ、と言おうとして、結局何も言えずに悪態をついた。 +++++++++++++++++++++++++++++++++ 青の騎士は、カナリアやクランたちと一緒に移動しながら、夕日に照らされオレンジ色に染まる王宮を仰ぎ見た。 浮かれた城下町を出るとあとは延々馬を走らせ、やがて隣国へ向かうのみだ。 「いいのか、ミシェル」 頭上からクランの声が降り注ぐ。 おの声音にわずかに案じるような色が混じっていて、ミシェルは苦笑した。 「彼女に冒険は似合わない。愛され、守られて誰よりも幸せに生きるべきだ。俺はそう思うよ」 ただ純粋で綺麗なままでいてほしい。 生まれや身分は関係ないとは言っても、やはり自分のような戦いに身を置く人間とははじめから違うのだと彼は思った。 「さようならアルト姫。けれどいつか、この国が戦火に巻き込まれるようなことがあれば、俺はいつでもあなたを攫いに行きますよ」 どさくさにまぎれて、どこまでも遠くへふたりで逃げよう。 それまでは、どうか平和に。 「さて、ではギャラクシーの動向を伺いに国境を越えますか」 END
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