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「早乙女アルト、16才。美星学園高等科パイロット養成コース在籍。彼女なし」
すかさず突っ込んでおいて、アルトは不機嫌そうに鼻を鳴らした。 「それにしてもねえ、ちょっとやりすぎだよねえ」
短い鉛筆で耳の上をかきながら、男…刑事は机の上に肘をついた。
「確かに正当防衛ではあるけどね。顔面に肘鉄喰らわせた後投げ飛ばして気絶しているにも関わらずみぞおち踏みつけて泡吹かせたって?死んだらどうするんだ」
ふい、とそっぽむいたアルトの長い髪がふわりと揺れる。枝毛の一本もないだろうまるでシャンプーのコマーシャルに出てきそうなそれをなんとなく眼で追ってしまって、刑事はわざとらしく咳ばらいをした。
「鼻の骨折れちゃってたよアレ。ついでに肋もイッちゃってるって病院から連絡きたし。
一応アルトは<被害者>なので、言葉づかいもそれとなく丁寧ではあるが、アルトの傍若無人な態度にそろそろイラついてきたようである。 「遅いねえ」
これからまだ保護者に状況説明をしなければならない。いくら成人しているとはいえ、まだ学生である。
「あー。面倒かけてすみません」 それにしては若く見えるしあまり歌舞伎俳優には見えないが、と思いながら右手を差し出したが、迎えにきたその保護者は握手をしながら引き攣った笑みを浮かべた。 「違います」
「はあ、代理人の方ですか」
さきほどから目を合わせようとしないアルトを睨みながら、オズマは答えた。
「そして上官におしつけたと」 目をそらしながらぼそっと呟いたアルトを拳で殴っておいて、無理やり頭を下げさせた。
「人さまに怪我をさせたようで申し訳ありませんでした。喧嘩ですか?」
ミハエルには、「アルトが他人を怪我させて警察に補導された」としか聞いていない。
「彼は被害者なんです。一応」 憤然と立ち上がって抗議するが、オズマにおしもどされて再び椅子に腰を下ろす。
「いや確かに、公園のベンチに座っていたところ知らない男が隣りに座って体を触ってきたというのは痴漢以外のなにものでもないのですが。あそこまで再起不能にしなくても」 若い刑事がペンを振りながら口を挟む。なぜか満面の笑みを浮かべていた。
「まあ、死んだわけではないですし、相手も反省していますから。 こちらが加害者のような気がして、オズマは深々と頭を下げた。
「なんでこっちが謝らなきゃいけないんだよ。気色悪い思いしたのは俺なんだぞ」 不貞腐れた態度でぶつぶつ言っていたアルトが不思議そうに振り替える。
「カツ丼食わしてくんねえの?」
そろそろ気づいたことだが、どうも顔と性格のギャップに問題があるようだ。
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