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【2025/04/19 21:55 】 |
オズマ隊長が事件です!2
アルトは作ってもらった弁当を片手に、格納庫へ向かうことにした。
 自分の機体は今整備中だが、コクピットに入ってしまえば見つからないと考えたのだ。
 忙しそうに仕事をしている整備士たちを横目で見ながら周囲を見回し、そっと機体に近づく。

「ん?オズマ隊長んとこの姫じゃないか。どうしたんだこんな時間に」

 ひとりの整備士がドライバを器用にくるくる回しながら声をかけてきた。
 いつも通り、「誰が姫だ!」とお約束の反応をしてからはっとして口を覆う。あまり騒がない方がいい。

「コクピット入ってもいい?」
「はあ?何言ってるんだ。ダメだダメだ。今整備中なんだから、邪魔になる」
「そこを何とか!」
「今はダメだって。あと三時間くらいで終わるからそれからにしろ。だいたい何するつもりだおまえ」
「ここで寝ようかなって」
「・・・・・・お姫さまはお部屋へお帰りください」
「・・・ちっ。オズマ隊長がきたら、俺のことは見かけなかったって言ってくれよな!絶対だぞ!」

 ぐいっ、と背伸びして顔を近づけるアルトに、整備士の男はかすかに頬を染めて、迫力に負けたのかそれともほかに反論できないなにかがあるのか、小さくうなずいた。





 いい匂いがする。どこか懐かしい味噌汁の匂いだ。ご飯と味噌汁は三食欠かせない、そう信じて疑わないオズマである。
 格納庫で整備状況をチェックし、なぜか普段に比べて無口な整備士と二、三点検の確認をしたのちにがやがやと騒がしい食堂へ足を踏み入れたオズマは、中央のテーブルに人だかりができているのに気づいた。何をしているのかと声をかけようとしたところで、人だかりの中のひとりがこちらに気付いて顔を歪める。
 眉をひそめて口を開こうとした瞬間、風船が破裂したような爆音が響いた。
 正確には爆音ではない、失神しそうなほどの笑い声の合唱である。
 面喰ってぽかんと立ち尽くすオズマの様子に、彼らは死にそうだと顔を赤くしたり青くしたりしながらげらげらと笑った。ついには腹を抱えて床に倒れ伏すものまで続出し、食堂は騒然となる。

「なっなんだ貴様ら!人の顔見てけたけたと・・・」
「いや、オズマおまえ、ふはっ」

 失礼なことに、人を指差しながら同僚はセリフの途中で耐えられずに吹き出した。目に涙を浮かべている。
 かちんときて、オズマはずんずんと彼らの方へと歩いて行った。人だかりの中央にあるテーブルに、一冊の本が置いてあるのが目に入る。

「そ、それは」

 さっきちらりと目にした『銀河の愛は一畳半』が物々しく鎮座している。

「おまえこんなもの読むのか。しかもご丁寧に自分の名前まで書いて」
「はあ?」

 なんのことだ、と、この中では最も冷静なカナリアに向かって尋ねる。
 カナリアは本を手に取りぱらぱらとめくって、最後のページを開けた。そこには筆書きで、大胆に『オズマ・リー』の文字。
 ぎょっとしてのぞきこむが見間違いではないようだ。

「んなっ、」

 これはキャシーに借りたものだ。なぜ自分の名前が書かれているのか。それにこの、やけに神経質な文字には見覚えがあった。
 本の所有者キャサリン・グラスその人の筆跡である。
 これを借りたとき、確かにオズマは中身を確認することもなくほったらかしにしていたので、はじめから彼女がこれを書いて自分に貸したのかどうかは不明である。
 しかもなぜこんなところに置いてあるのか。
 確かこれを持っていったのはアルトだ。あいつがここへ置いて行ったのだろうか。

「おまえこんな趣味があるんだな」
「違う!これは借り物で」
「借り物に自分の名前を書くかあ?ま、見かけによらず乙女趣味ってことだな。ぶわっはっはっは」
「いやーさすが色男。今日は特に男前じゃないか」
「ぷぷぷっ。少佐、自分の趣味をそんなおおっぴらに主張しなくても、ぶふぅーっ」

 部下にあたる後輩までもが爆笑する。

「なんだ趣味ってのは!その本は俺のじゃなくてだな、」
「どうしたんだオズマその顔は」
「顔ォ?」

 よく見ると、冷静かつ良き相談相手であるカナリア・ベルシュタインさえも微妙に頬をひきつらせている。
 これにはさすがのオズマも不安を覚えた。

「いや、虫に刺されたか、痒いんでこすってたんだが・・・赤くなってるか」
「そうじゃない」

 呆れた顔でぞんぞいに否定され、小さな手鏡を渡される。
 カナリアがそんなものを常備していることに驚いて目を見開くと、冷やかに睨まれて咳ばらいをした。
 そっちだ、と指摘された左頬を映してみる。
 そこには憎らしいほど太い黒文字で、

『シスコン』

 と、簡潔な悪口が書かれていた。

「・・・・・・・・・・・・!!あぁぁんんんのクソガキィィィィ!!」

 顔を怒気で真っ赤に染めて、拳をぎりぎりと握った。脳裏に浮かぶ、女のような顔をした男のしたり顔。

「ぶっ殺す!!」

 怒鳴ると、素早く身をひるがえして食堂を出て行こうとしたが、ふいに足を止めた。
 ポケットから印籠型の携帯をとりだしてコールする。

『はい』
「ミシェルか。アルトはどうした」
『さあ・・・。外へ食事に出ると言っていたような』
「そうか。もし見かけたらすぐ俺に連絡入れろよ。隊長命令だ!」
『イエッサー』

 なんともやる気のない返答に脱力しながら通話を切る。
 ふと、この優秀かつ最も頼りにしている部下ははたして自分を本当に慕ってくれているだろうかと疑問に思ったが、いまは置いておくことにしよう。


「おばちゃん!弁当ひとつ頼む!適当に詰めてくれないか」

 アルトが外出したのなら、隊員専用の出入り口を張ればいい。
 規則で設けられた時間までには戻るはず。
 どんなに裏工作したところで、出入り口はいくつもないのだから。
 のんびり食堂で食事などとっている場合ではない。
 もしかすると今この瞬間にでもこっそり帰ってくるかもしれないとオズマは気が気でなかった。捕まえるのはいつでもできるが、いますぐこの煮えたぎった頭でとっ捕まえて一発殴ってやらなければ気が治まらない。

「あれまぁ。今日はやたらテイクアウトの注文が多いのねえ」

 そんな、おばちゃんの呟きは頭に血が上っているオズマの耳には届かなかった。





『そんなわけで目下、出入り口封鎖中だ。まさかおまえ本当に外にいないよな?』

 呆れたような、どうでもよさそうな声で言うミハエルに、アルトはふふんと鼻で笑った。すべて予想通り。

「そんなわけないだろ。就寝時間ぎりぎりに部屋に戻ってしまえば俺の勝ちだ」
『おまえねえ』

 いつの間にそんなルールができたんだ。
 だが、確かに一晩たてばオズマの怒りも多少は冷めるだろう。げんこつひとつで済めばいいのだが。完全に頭が沸騰状態の今見つかるのは非常に危ない。

『で、いまはどこに隠れてるのかな、お姫さまは?』
「しばらくは隊長動かないだろうから、いまのうちにシャワー浴びておく。先に部屋に戻ってもいいけど、絶対一度は確認しにくるだろうから危険だな」
『なんでそういう知恵だけ働くんだか』
「おまえは見た?隊長の顔」
『ああ。食堂にいたやつから写真が送られてきたよ。大胆なやつだなおまえ』
「おもしろかっただろ」

 楽しげなアルトの声に、ミハエルはため息で返した。

『俺は火の粉をかぶるのは絶対ごめんだぞ』
「わかってるって。大丈夫大丈夫」
 どこからそんな自信がくるのか、笑いを含んだ声であっさりかわして、通話が切れた。





 一度、まさかと思いアルトとミハエルの部屋を訪ねたが、期待に反して誰もいなかった。
 オズマはちっと舌打ちしてきびすを返す。途中弁当箱を返却してから、時計を見た。時間は日中勤務時の消灯時間二時間前をさしている。
 外出から戻ってくるなら、消灯時間ぎりぎりを狙ってくるだろう。
 オズマはここからは見えない出入り口を気にしながらも、軽くシャワーを浴びようと反対方向へ向かった。
 トイレの洗面所で顔を洗ったが油性で書かれた文字は多少薄くはなっても完全には消えない。ちゃんと風呂のぬるま湯で石鹸をつかって洗うしかないだろう。なんて厄介な。
 これはげんこつひとつではとうてい足りない。正座で三時間説教のあと格納庫三十周は走らせてやる。泣きついて謝っても許すものか。

 どうすればあの生意気な新入りを凹ませられるだろうと考えながらシャワールームへ入り、更衣室で服を脱いだ。
 まだ夕食時なので人が少ない。棚に置かれた籠にはひとり分だけ無造作に脱ぎ捨てられた服が一着、他には誰もいないようだ。
 ざぁ、と音がする。見ると、一番奥を誰かが使っているようで当然あとはすべて空いている。
 ひとりだけしかいない中で、隣りに入るのもおかしいのでオズマは三つ間をあけた場所に入ろうとした。
 ふいにタイルの床になにかが落ちているのに目をとめた。

「なんだ?」
 近づいてそろりとつまみあげると、赤い色をした長い紐だった。どこかで見たことがある。
「・・・・なんだっけか」
 よく見ると両端が房になっていて、ただの紐というより飾りのようだ。
「・・・・・・・・・・・・・あ!!」
 はっとして立ち上がり、一番奥の閉じられたカーテンを乱暴に引く。

「あ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」

 濡れて沈んだ色をした長い髪。
 女よりも白い肌。
 しっかりと筋肉はついているが薄い体は少年特有のもので。
 驚いたように開かれた目元がやけに色っぽく艶めいている。

「うわぁぁあああああ!?」
「うわぁぁあああああ!?」

 釣られて叫んで、オズマは次の瞬間自分で開けたカーテンを再び閉めてしまった。
 ざぁざぁとひたすらシャワーの盛大な音だけが響く。
 あとは無音。ただお互いの息遣いだけが、聞こえる気がした。

「て、違ぁぁぁう!!アルト貴様ァ!」
「うわあ!?」

 何を臆することがあるのかオズマ・リー!
 オズマは再びカーテンを開け、さきほどと同じ姿勢で硬直しているアルトの肩を掴むと壁におしつけた。
 乱れる髪から飛沫が舞い、頭の上から降り注ぐお湯でオズマもずぶぬれになったが、すでに裸なので問題はない。

「ちょっ、隊長!」
「貴様よくもこの俺の顔に落書きしてくれやがったなァァァ!?」

 え、コルァ!と凄み、逃げられないように両手首を壁に固定して険しく睨みつける。
 動揺したようにアルトの目が揺らいだ。
 じっと見つめる。
 一瞬たじろぐオズマだったが、ここで逃がしては上司の名が廃れるというものだ。
 ふたりは何を言い出そうかと黙り込んだ。緊迫した空気が狭いブースを支配する。
 濡れて濃くなった青く長い髪が白い肌にはりつき、目を見張る艶かしさが際立っている。
 オズマは段々と、自分がひどくいやらしいことをしているような気がしてきて、シャワーを浴びているはずなのに背中にじわりと汗が浮かんだ。お湯を浴び続けて上気したアルトの体がほんのりと色づいている。
 白い湯気がもわもわとふたりを包んだ。非常に気まずい沈黙が降りる。
 何か言え、俺。
 オズマは混乱した。

(え、なんだこの状況)

 怒鳴りつけて、説教して、泣かせるんじゃなかったのか。
 一方、アルトも一見冷静に見えて実はひどくパニック状態に陥っていた。日常生活において、突発的事態に弱いとミハエルにからかわれたことを思い出す。予想外のできごとにどう対処していいか分からず、掴まれた手を振り解くことも忘れて立ち尽くした。

 そんなふたりだったので、彼らは気づかなかった。
 夕食の時間も終わり、食堂から隊員たちがぞろぞろとシャワールームへ大移動してきたことも。
 カーテンを開けっ放しなことも。


 


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【2011/10/24 21:17 】 | オズマ隊長が事件です! | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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