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さて、諸君らは覚えているだろうか。
以前、ルカ・アンジェローニによるアルトの写真疑惑件、とある行き過ぎた整備員によるオズマ少佐への掲示板及びバルキリーへの行き過ぎたいたずらの事件を… 私、クラン・クランが、ルカがちょっとおかしいぞ…と言う事に気づいたところから始まり、何故かそれはくだらなくも妙な事件へと発展していった、あの事件だ。 覚えていない奴は、今すぐ見返してみるがいい。 私の活躍ぶりもしっかりと拝める事であろう。 ――って、そうじゃない。 とにかく、覚えているのなら話は早いし、覚えていなければまずは事件を見返すところから始まると思うが、ここでは覚えている事を前提に話を進めさせてもらうとしよう。 さて、その中で。私もすっかりさっぱり忘れ去っていたのだが、とある隊員がオズマを呼び止めたことがあった。 『ああ、オズマ!おまえ大変なことになってるぞ』 『バルキリー?いや違う…』 『いいのか…?』 あの時は、あの隊員がなにを言いかけていたのか気になったものだが、整備員のあれこれや、メモリスティックの写真についてやらと、色々立て続けに起こったものだから、頭の中からきれいさっぱり消えてしまっていたのだが…… あれから三日後。隊員の話を、あの時きちんと聞いておくべきだったのだと――私達は思うことになる。 …あ、訂正。 私達が、ではなく、オズマが…が、正しいかもしれない。 それは、昼休憩のことだった。 大学も休みで、私は朝も早くから訓練に精を出していた。 身体を動かすと言うのは実に気分のいいものだ。 ネネやララミアを従え、私は心地よい疲労と空腹を抱え、食堂へと足を運んだのだった。 今日はB定食にでもしよう。エビフライがついてくる。 うきうきわくわくと、衝動に入り、おばちゃんたちからB定食を受け取り、三人でテーブルに着いたときだ。 後ろのテーブルが騒がしい事に気が付いた。 彼らはなにやら端末をいじっており、それを覗き込んで騒いでいるらしい。 エロサイトでも覗いているのだろうかと、一瞬顔をしかめたが、まぁ、まさかこんなところで白昼堂々それもあるまいと思い直し、 私はエビフライにフォークをつきさした。 衣はさくさく、相変わらずおばちゃんのごはんはおいしい。 そういえば、うちにもう一人料理上手がいたなぁなどと、はむはむもぐもぐ。 実に平和だった。 その会話を聞くまでは。 「なぁ…本当に…あの人がお姫さんを…?」 「だって、あれ、直ぐに消えちまったけど、あの人の名義だったじゃないか!」 「でも、デマだったって噂もあるぜ?」 「けど…あの人がシャワー室でお姫さんを襲ったのは――」 むぐ。 私はその会話の内容に、エビフライを詰まらせた。 お姫さん。 それはこのS.M.S内において、たった一人を指し示している。 アイツ以外に、S.M.Sで呼ばれている人間などありえない。 早乙女アルト。 顔だけは綺麗だが、口を開けばかわいくなどない。パイロットとしての腕前はよろしいものだが―― 基本は極度の鈍さを誇るフラグクラッシャーである。 …いや、有る一部ではフラグミサイラーかもしれない。 このS.M.Sでもアルトのファンだと言う男達は数知れない。 何故か女性ファンよりも男性ファンが多い事は本人には秘密である。 知られれば、キレて怒って手がつけられなくなるし、本人に迷惑をかけていないのならそれらは個人自由だ。 ファンだとのたまう事自体は別に悪くはないのだから。 多分、後ろのテーブルについているのは、そのお姫様のファンなのだろう。 とすれば、見ているものはあの中尉がもっていた、回覧メモリなのかもしれない。 まだ現存していたのか。 あの犯罪すれすれのメモリスティックが。 それは後々厳重に注意すればいいとして、今はどちらかというと会話の内容が気になる。 なんだか不穏な雰囲気を感じるのだ。 私は、野菜サラダをつつきながら、こっそりひっそり耳を立てた。 「でも、本当にあの人がこんな事をしたのか?」 「けど、あの人には前科が有る。お姫さんをシャワー室で押し倒したって前科がな」 「うーん…でも、オズマ少佐だぜ?寝てもさめても義妹の事ばっかの、あの人が…アルト准尉をどうこうしようだなんて…」 ぶっ!!! 「お、お姉さま?」 「げほげほっ…な、なんだ…と?」 思わず野菜サラダを噴出してしまった私は、思わず後ろを振り返った。 すると、あっと、気まずい顔をしている男達と目が合った。 私は一瞬どうしたものかと思ったが、ここまで聞いては放っておけない。 そもそも、あの事件はきちんと方がついて終息したはず…なのだ。 「…ん?」 …と、そこで、私はふと、重大な事に気が付いてしまった。 そうだ。 確かに、あの事件は方がついた。 『私達当事者』にとっては、だ。 だが、あの回覧をうっかり開けてしまった一部の人間は、その情報を知らないのではないだろうか。 あの後、あの回覧は偽装である事を記載したメールが回されたが―― あのメールをでまかせととる人間だっていないわけではないのかもしれない。 それに、人間とは常々ゴシップが大好きだ。 その真偽を問うことなく、楽しければ万々歳と言う人間だっていないわけではない。 つまり――あの回覧の事件はまだ完全に鎮火したとは言いがたいということだろう。 あの整備員のように、あのシャワー室事件のことだって根に持っている奴がまだまだいるのかもしれないし。 そういったやからが、整備員のように動いているのかもしれない。 私は立ち上がると、固まっている男達の前へと進み出た。 これは放っておいては、第二の事件がおきてしまう! 「お前達、その話はどこから回ってきたのだ!」 ひっ、と、怯えた男達はあっさり事のすべてを自白した。 実に軟弱な奴らである。 要は、これがあのすれ違った隊員の『オズマが大変な事になっている』の真実である。 つまり、あの時すでに、あの回覧の内容はごく一部ではあるが開けられており大騒ぎになっていたのだ。 そういえば、談話室を通りかかった時にあの隊員に出会ったのだった。 談話室にはたくさんの人がいた。 彼らもあの談話室にいたらしい。 ならば、あそこから広まった可能性は高い。 私は急ぎ、あの隊員を探す事にした。 もしかしたら、あの隊員はもっと大事な事を…伝えようとしていたのではないかと思ったからだ。 その隊員はあっさり見つかった。 談話室に足を運ぶと、暢気にコーヒーをすすりながら端末を弄っているのを見つけた。 ちらりと見ただけだったが、間違いない。 私の目はミシェルには劣るが、いい方だ。 記憶力だって伊達ではない。 隊員は私に気づくと慌てて敬礼をし、何か?と首を傾げていた。 まぁ、そうだろう。私が誰かに用件があるということは実に珍しい事だからだ。 「すまないが、この間の…オズマのことについてなのだが」 「この前の……あ!あの、回覧の…」 「そうなのだ!あの時は私達も急いでいて話を聞く事が出来なかったのだが、ちょっと気になってな」 「多分、今頃もっと大変な事になってるんじゃないでしょうか?」 「…どういうことだ?」 私は首を傾げた。 もっと大変な事。それは今の状況の事ではないのだろうか。 隊員は、困ったように笑った。 「あの時、談話室にいたのは、俺達だけじゃなくて…実は早乙女准尉もいたんですよね…」 「……な!?」 まさか、まさか、まさか!? 私は顔が引きつるのを抑え切れなかった。 「だから、大変だって言ったのに…皆、俺の話、聞かないで…行ってしまうし…」 「いや、それは、すまん」 「あの時は一応フォローしたんですけど、また騒ぎになり始めてますし…多分、准尉――あの時もすっごく怒っていたんで…今頃、怒鳴り込んでいる頃では?」 そう、か。 これが、この隊員の言う『大変な事』だったのか。 一番知られてはまずい人間に知られてしまった。 そういえば、なんか三日前から、アルトの奴、機嫌が悪いような気がしていたが――なるほど、納得した。 一応彼のフォローがあって、黙っていたようだが――噂になり始めた今、フォローの効力など皆無だ。 プライドそのほかもろもろを傷つけられたアルトがぶち切れ、怒鳴り込むのは時間の問題と言えよう。 仕方がない。 私はとぼとぼと歩き始めた。 一応事実を知るものとして、オズマに忠告しに行ってやろう。 もしも既に怒鳴り込んでいるようなら、ミシェルと一緒に止めなければ。 …いや、そもそも既にミシェルがフォローしているのではとも思ったが―― 「姫っ!考え直せ!だから何度も言うが、あれは誤解なんだって!」 「離せっ、あんにゃろっ、死なすっ、絶対に死なすっ!あんな事する人だなんて、見損なったぜ!」 「だからあれは、隊長がやったんじゃなくて…」 「いいから離せ。ミハエル!!俺を行かせろ!」 「それ、別な時に違う意味で聴きたい言葉だな~…って、落ち着けアルト!」 …どうやらぜんぜんまったく持って、聞き入れられていなかったらしい。 オズマの部屋の前で、攻防を繰り広げる二人を前に、私はやれやれと肩を落とした。 どれ、声をかけて私も加わってやるか。 おい、アルト。 そう声をかけようとしたそのときだ。 あの男はなんて運が悪いのだろうか。 アルトではなく、この事件の中心人物である男のことだ。 こんな事件に巻き込まれ、あまつさえ、妹にはさんざん責められ一部からは恨みまで買ってしまい。 そのすべての原因がアルトにあるのに、その罪すらも押し付けられている男。 「うるさいぞ、お前ら!人の部屋の前でなに騒いで…」 「…あちゃー…」 思わず額を押さえたミハエルの心情は、私と同じであろう。 ――なんで出てきたんだ、この人は。 ぎろりと、アルトが出てきた男――オズマをにらみつけた。 身長差が、十センチも有るため、上目遣いで睨みつけているのが、ちょっとばかり迫力に欠けている。 それでも綺麗な男が睨む姿は絵になるものだ。 「な、なんだ、アルト。その顔は…」 「隊長にお尋ねしたい事があります」 「あ?なんだ?」 「先日の回覧の事です」 「回覧?」 どうやらオズマは三日前の事だと言うのに記憶にないらしい。 忘れたいほどくだらないことではあるので、気持ちは分かるが、ボケるにはまだ早い年齢ではないだろうか。 うーんと唸るオズマに焦れたのは、アルトだ。 「俺の写真が乗った回覧です!アンタが書いた!!」 あぁ、やっぱり誤解しているらしい。 その言葉でようやく思い出したらしいオズマは慌てて、違う!と首を横に振った。 もちろん、頭に血が上っているアルトが納得するはずがない。 「証拠はあるんですか!?証拠は!」 「証拠って…この間ちゃんと、あれは偽装だってメールが届いただろうが!」 「口ではなんとでもいえます。本当に、アンタじゃないのか?」 「理由がねぇだろ、理由が!何で俺がお前の裸なんか撮って乗せにゃならんのだ!」 「……」 「信じろよ」 「………」 「いや、本当に、俺じゃない。俺は潔白だ。まっさらだ」 「…………」 「いや。そりゃ、色々あったが…そりゃ…まぁ、あの時はちょぉぉぉっと、男として微妙な気分だったが、断じてお前に不埒なことをしようなんて事は思ったことはない!銀河くじらに誓ってないぞ!」 じとーっとした目でオズマを見つめるアルトは、信じ切れないでいるようだったが――それでもちょっとは心が動いているのだろう。 たしかに、オズマにはそんなことをする理由がないのだから。 けれども、オズマではないという証拠がないのも事実だった。 これでは、私やミシェルが口を出したところで、アルトは信じまい。 オズマがやっていないという証拠はない。 オズマがそんなことをする理由もない。 ならば―― 「オズマがそういうことをしているという証拠を探せばいい。逆に見つからなければオズマの身の潔白は証明される」 「なるほど、いい考えじゃないかクラン。要は家宅捜索だな」 私の提案にミシェルは、クランにしてはいい事を言うと、褒めているんだか貶しているんだか良く分からない事を呟いた。 「か、家宅捜索ぅ!?」 「別に見られて困るものはないでしょう?アルトもそれで納得する…いいな?」 「………わかった、それでいい」 ようやく折れてくれたらしいアルトは、渋々といったふうではあるが、それて手を打ってくれるようだ。 そうなれば、オズマも了承せざるを得ないだろう。 アルトがその方法で納得したのだ。 これで身の潔白が証明されるのであれば、受け入れない手はない。 受け入れないと言う事は、つまり、自分にやましい事があると言うようなものだからだ。 「くそっ…その代わり、俺も立ちあうぞ!」 「勝手にどうぞ。俺も勝手にします」 ばちばちと睨みあう二人はまるで、親子喧嘩かなにかをしているかのようだ。 私とミシェルも手伝う事を決め、こうしてオズマの部屋の家宅捜索ははじまったのだった。 オズマの部屋の家宅捜索は実に楽しいものだった。 他人の部屋をあれこれと探り、ひっくり返し、まるで警察の気分だ。 「あ、これ未処理の書類!隊長~、知りませんよ~?」 「これは…期限切れのチケットだな。誰と行くつもりだったのか…」 「……ちっ、何もないか。処分したんじゃないでしょうね?」 がらくたから、思い出の品まで色々と出てくる出てくる。 よくぞこの狭い執務室の中に溜め込んだものだ。 「あ、エロ本発見。隠し場所がベッド下っていくつですか…」 「男なんてそんなものなのだな」 「……最低」 「見るなっ!つーか、アルト!最低とはなんだ!お前も男なら分かれ!」 くそう、なんで俺がこんな目に、などと呟いている男は放っておいて、私達はおもしろおかしく、家宅捜索を続けた。 もちろん、私もミシェルも事の真相を知っているので、何も出てこない事は知っているが。 知っているからこそ、おもしろいのだ。 キャシーとの思い出の品をからかい、オズマの私物にけちをつけ、未提出未処理の書類を黙っている代わりの取引をしたりと、騒がしく。 しかし、何も出てくるはずがない。 アルトも諦めつつあるのだろうか。 ちらちらとオズマを見ては、疑いの視線からなんだか申し訳なさそうな表情が浮かび始めていた。 このまま、何も出ず、アルトも納得してくれればいいのだが―― 「あとは、パソコンのデータとメモリスティック、ディスクだけですね」 「おい、こっちは色々あるからな。見せられるものと見せられないものが…」 「見せられないものって、なんですか?俺には見せられないと?」 「だーかーら!俺にだってな、仕事上お前らには見せられない機密があるんだ!」 「……まぁ、信用してもいいですけど」 ふん、と顔を逸らすかわいくないアルトは、それじゃあと、一つのメモリを手に取った。 それは、なんだか見たことの有る、子供用菓子のおまけシールが貼ってある。極秘とかかれた。 ん?あれ? なにか重大な事を私は忘れているような気がする。 またしても、とてもとても、大切な事だ。 ちょっと思い出さないと、余計事態が悪化するような――そんな……… 「あっ!!」 「あああああ!!!」 私とミシェルの声が同時に響いた。 だが、時は既に遅し。 アルトはそれを端末に差込、どうやら覚えていないらしいボケているオズマは、平然とし… 私とミシェルはこっそりと、部屋を出た。 もう、だめだ。 私達ではフォローしきれまい。 その憶測は大当たりで。 『な、なんだこれは!!!!』 『や、やっぱり…っ!アンタの仕業かああああ!!!』 『ちっ、違うっ!俺じゃ…って、あああ、それはっ、あの中尉から預かった……しまった、処分し忘れて…』 『処分!?そうして証拠隠滅を図ろうと……っ!』 『違う、誤解だっ!俺は断じてそんな盗撮なんか…』 『……さいってー…変態…っ!人権侵害で訴えてやるっ!』 『だから俺じゃないっ、俺じゃ…っ、あ、こら、まてアルトっ!何処に電話を…いや、本当に俺じゃないっ、俺じゃないんだっ!これはたまたま見つけて取り上げただけで、俺のものじゃねぇっ!つーか、何で俺がこんな写真を持ってなきゃなんねぇんだ!これで俺がなにをしたと!?持っていて意味なんかねぇだろうが!』 『逆切れですか…ふーん…俺の写真でナニしていたんだかは追求しませんけど…』 『してねぇよ!できるか!』 ぎゃあぎゃあ、わーわー。 大騒ぎだ。まるで痴話げんかのようだ。 どったんばったん。 なにやら手まで出はじめたようで―― 「帰るか」 「…そうだな」 私達は、触らぬ神にたたりなし、を決め込んだ。 もう、なんかかかわるのも疲れた。 どうにでもなればいい。 もういっそ、ホモでもなんでもいいじゃないか。 別に私に害があるわけじゃないし。 ミシェルはなんだか複雑そうだったが――アフターケアはこいつがやってくれるだろうから、私はとりあえず、もうかかわらない事を心に決めたのだった。 その後――アルトの誤解は解けなかったらしい。 アルトは怒り、騒ぎ、結局は、白も黒もはっきりせず事件は終わった。 その代わり、大人らしく一歩引いたらしいオズマが、暫くの間、お詫びと称してアルトを外食へと誘い、ご機嫌取りをしている姿が見られた。 その姿はまるで、アルトの気を引こうと必死な男の姿に見えて、一部ではまた『オズマ隊長がアルト姫にご執心らしい』などと囁かれ始めている。 さらにそれが、アルトファンの火種になるとは知らずに、アルトがその事を忘れる日まで、オズマのご機嫌取りは続いた。 知らぬは本人達ばかりなり、である。 【完】 PR |
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