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【2025/04/20 03:52 】 |
ルカ・アンジェローニの秘密 1

【早乙女アルトの証言】
え、ルカ?あいつがどうかしたのか?
さあ・・・学校で会ったときは普通だったけど。なに?
最近?別に・・・。いつもどおりだけど。何が聞きたいんだよ。
知らねえって。




 ダメだ。聞く相手を間違えた。
 私はがっくりと肩を落として、むっとした顔(こいつのこの表情はデフォルトだ)をしているアルトを上目遣いに睨みつけた。
怖くなんかないぞと言ったように睨み返してくるあたりが全く可愛くない。
 ルカはこいつに何故かなついている。この男のどこがそんなにいいのか知らないが、アルトもルカには心を許しているようで、べたべた触ろうが抱きつこうがちょっとばかりきつい突込みをしようが、怒鳴らないし怒らない。殴ろうともしない。
 もちろんルカにそんなことをすれば即、周囲から白い目で見られるだろう。第三者からすればどんなにルカが暴言を吐いたところで仕返ししようとする側がいじめているようにしか見えないからだ。
 ルカ・アンジェローニという子供、いや男はアルトとは違ってとてもいい子だ。それに可愛い。天使のように愛らしいというのはこのことを言うのだろうか。
 情報通でデータ分析にも長けており、オズマも他のSMSのメンバーも大いに頼りにしている。
 電子戦を最も得意とし、彼のデータ分析を元に戦略を練るのだから、かっとなって敵に突っ込んでは機体を破損させて戻ってくるアルトに比べるとどちらが褒められるべきか簡単に分かるというものだ。。
 素直で礼儀正しい。いつもにこにこ笑顔で、見る者を癒してくれるまさに愛玩動物だ。いやマスコットか。同じこと?マスコットの方が響きがいいではないか。


 だが最近私は、このルカという人物は本当はものすごく計算高いのではないかと疑っている。たとえば制服の着こなしだ。
 短パンだぞ。短パン。普通の十五歳は制服で短パンをはくだろうか。少なくとも三星に、他に短パンを履いている男子生徒はいないらしい。ミシェルが言っていたのでこれは本当だろう。
 似合っているからいいものの、何を思って短パンなのかが知りたい。もし見る者に「可愛い!」と思わせるための罠だとしたら、彼の思惑はすばらしく成功している。
 ついでに襟からのぞくフードもそうだ。あれをお洒落と呼ぶのか私には判断できないが、だらしない格好のアルトに比べたら微笑ましい。これも計算だとすると我々はとんでもない小悪魔の魔法にかかっていることになる。


 さて、そのルカの様子が最近おかしいと気づいたのはどうやら私だけのようだ。
 同じ学校に通っているアルトもミシェルも、特別ルカの様子を気にしているそぶりはない。さきほども普通におしゃべりをしながら偵察から帰って来た。だが私にはルカがいつもと違っているように見えるのだ。
 彼はいつも笑顔を絶やさない。
 それはいいが、このところたまに頬を赤らめにまにましている。
 頬が赤いのも常に笑顔なのもデフォルトなのだが、私の目には<何かを思って><嬉しそうに思い出し笑いをしている>ようにしか見えないのだ。
 たとえば、彼が愛する端末のモニタをのぞいているとき。
 一体何を見ているのだろうと不思議に思うほど画面を見つめ、大きな目をきらきらさせてにやにやと笑っている。
 これがミシェルだったら、何エッチな画像を見ているんだと叩いてやるところだがルカに限ってそれはないだろう。いや彼も健全な男子なのだろうが、どうもそういうところは想像がつかないのだ。私も彼の魔法に毒されているのだろうか。
 だがたまに、ごくたまに頬杖をついて遠くを眺めつつため息をついていたりなんかするのだから、これは気になって仕方ない。恋煩いか、とも思ったが、その表情は切ないというよりやはり笑いを堪えているように見える。一体なにを思い浮かべているのか。
 一度気になりだすと夜も眠れない。
 私はルカとそれほど仲が良いというわけではない。
 それでいくなら、ミシェルやアルトに比べるとSMSの同僚であるということくらいしか共通点はないかもしれない。それでも顔を合わせれば話をするし、食堂で一緒になると学校で起こったことなどを楽しそうに話してくれる。
 新しく作ったプログラムについて説明を受けたこともあるし何より彼の情報収集能力はすばらしい。そういう点においては私は彼を尊敬している。
 だが何か悩みでもあるのか、などと聞くには少々距離が遠いことも確かである。
 なので、偶然見かけたアルトに声をかけたのだったが。
 忘れていたが早乙女アルトはアホだった。
 パイロットとしての腕は悪くない。顔もいい。
 だが極度のニブチンである。周囲のことなど頭にない。
 どんなに仲の良い友人のことであっても、彼または彼女が悩んでいたり怒っていたりしても気づかないのだろう。
 なんて観察力の低い男だ。呆れてしまう。
 それなのにこの男にルカがなつくのは何故なのか。
 実は恋をしていたりして・・・と考えたところで気持ちが悪くなったのでそれは却下だ。いくらふたりとも顔が良くてもそれは勘弁してほしい。それにルカとアルトだと、どっちがどっちなんだ。いや何を考えているんだ私。くらくらしてきた。もうやめよう。
 そう、とにかくアルトに聞いたのは間違いだった。
 どんなに育ちがよくて顔が良くて操縦の腕が良くても、所詮ただのアホだった。


 腹が立ったので、ふんっと鼻を鳴らして、三歩あとずさると大きくバイバイと手を振った。アルトは怪訝な顔をしたが、すぐに興味を失ったようにくるりと背を向けて、トレーニングルームの方へと走っていってしまった。
 こういうところがアホだというのだ。もう少し、他のことにも関心を持てといいたい。
 普通ならここで「ルカがどうかしたのか」と心配するところではないのか。友達がいのない奴め。
 仕方ないので、私も方向転換をしてミシェルを探すことにした。アルトよりは百倍も役に立つだろう。
 そうだ、ランカにも聞いてみよう。
 最近仕事が忙しいらしくなかなか学校へは顔を出せないようだが、何か知っているかもしれない。
 私はミシェルを探してSMSの建物内を移動しながら、ランカへメールをすることにした。

【ミハエル・ブランの証言】
ルカの様子がおかしい?よく見てるな。そんなに仲良かったっけ?
確かに最近やけに機嫌がいいって言うか・・・うかれている?そんな感じはするな。
でも任務中にミスすることもないし、悩んでるふうでもないからそんなには気にしてないよ。
何かいいことでもあったんじゃないのか?



 きょろきょろしながら歩いていると、探しものの方からこちらに向かってやってくるのが見えて私は立ち止まった。頭の後ろに手をやって、向こうもなにやら探しものをしている様子。
 ぴんときて、私は彼を待った。

「アルトならトレーニングルームの方へ行ったぞ」
「うわ。何で分かったんだよクラン」
「おまえいつもあいつを探しているだろう」

 ここ最近は、あいつが周囲を見回しながら歩いていて私と鉢合わせするとほぼ八十パーセントの確率で『アルト知らないか』と聞いてくる。まさか毎日のように鬼ごっこをしているわけでもあるまいな、と不思議に思う。

「そうかな。いやそれはいいんだけど。おまえは何してるんだ?ネネたちと一緒じゃないんだな」
「ふたりはまだ買い物から帰って来てない。それよりミシェル、おまえルカに何も聞いてないか?」

 アルトよりは詳しいだろうと尋ねるが、やはりミシェルも何も知らないと怪訝な顔をしたのだった。
 やはり私の思い違いだろうか。本人に確かめた方が早い気もするが・・・。

「どんなふうに様子がおかしいんだ?ちょっとあっちで話そうぜ」

 そう言って、ミシェルは娯楽室の方を見る。まだ昼間なので人は少ないだろう。
 普段は夕食後あたりから人が増え始め、酒を飲んだりテレビを見たり、賭け事で大騒ぎしたりと何かと喧しい。私はあまり行かないが、男連中はそうやってストレスを発散させているのだろう。
 酒と女と賭け事くらいでしか楽しみを見出せないバカに興味はないが、可愛いとも思う。男はいくつになっても子供のようなものだ。
 ミシェルだって、昔はあんなに素直で可愛かったのに最近はめっきり憎らしい青年になってしまった。
 ジェシカの死後鬱屈した何かを瞳の奥に秘めているようにも見えるが、幼かった頃と違って、もう心の奥までのぞくことはできなくなってしまった。それが私には寂しい。
 触れてはいけない部分が増えすぎて、距離が遠くなってしまった。
 その触れてはいけないところに触れていい存在があるとすれば、もしかして、と思ったが私はそこで思考を止めた。悔しい。
 言っておくが、アルトのことはアホでガキだとは思うが決して嫌いではない。奴の前では、ミシェルは素の表情をふいに出すときがあるからだ。気を許せる相手がいるのはいいことだ。
 それがすでに私ではないことが気に食わないのだが。
 誰もいない娯楽室のソファに座って足をぷらんとさせていると、ミシェルが紙コップをふたつ手に持ってひとつこちらに手渡した。こういう、抜け目のないところが女にもてる理由だろうか。きっとアルトはこういうところには絶対気遣いを見せないな。

「それで、ルカがどうしたって?」
「ああ、最近様子がおかしいような気がしてな。確かに何かいいことがあって浮かれているのかもしれないが、あいつの身の回りで何かあったか?」

 冷たいジュースを飲みながら尋ねたが、ミシェルはコップを握ったまま首を傾げるばかりだった。

「うーん。やっぱり分からないな。ああ、よく端末をいじりながら思い出し笑いしてるけど」
「それだ!」
「どうせ何か新しいプログラミングでも試してるんだろう。あいつに限ってエロ画像見てにやにやしているなんてことはないだろうし」
「ああ、おまえと違ってな」
「何を言うんだクラン。画像なんかより実物の方が俺が好きだぞ」
「黙れスケベ!」

 何故そういうことを平気でさらりと口にできるんだ。全く。

「いつからだ、機嫌が良さそうなのは」
「いつからかな・・・。ああほら、こないだアルトが隊長と大騒ぎしただろう?あの直後くらいかな」
「ああ、あれはおもしろかった」

 ほんの悪戯心だったのだろう、アルトが居眠りしていたオズマの頬に落書きをして、SMS中を巻き込んだ追いかけっこをした事件だ。結局うやむやになって終結したが、私には詳しい事情は分からない。
 アルトが風呂に入っているところをオズマが襲ったとか、キャシーがそれに嫉妬したとか、食堂のおばちゃんがアルトにだけ特別メニューを提供しているとか、いまいち信用性に欠ける噂ばかりが先行している。

「でもあれはもう落ち着いただろう。それにルカは直接関わってないし、やっぱり関係ないんじゃないのか」
「俺もそう思うよ。あ、そういえば」
「何だ!」

 ぱちん、と指を鳴らして、ミシェルが斜め上を見つめた。

「SMS回覧の次の担当がルカだったかな」
「・・・・そんなことか」

 回覧といっても、資料室の開放時間延長のお知らせとか、今月の食堂メニューとか、新人隊員の紹介とか、新聞のようなものだ。

「ルカが担当っていうことは、何か新しいデータ解析についての記事でも頼まれたんだろう」
「だろうな」

 そんなことでウキウキするはずもないし。
 結局のところ、何も分からないままだ。



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