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うわ、大胆なセクシーショットですね。 ルカは目を丸くしながら可愛らしく首を傾げてそう言った。 もしルカ以外の誰かがその仕草をしながら言えば殺意が沸くほどイラッとするだろうに、この癒される空気は何なのだろう。 さすが天使の顔をした小悪魔、とちらりとルカを見ると、視線が交わって何故か彼は小さく笑みを浮かべた。 「でもやっぱり直接オズマ隊長に聞いた方がいいんじゃないですか?この記事投稿したの隊長ですかって。違えば犯人を捜せばいいし。それに何となく僕の勘ですけど、隊長への悪意を感じますよこれ」 「オズマへの悪意?アルト准尉じゃなく?」 「だってどうせ誰かが気づきますよこんなの。そしたら騒ぎが広まって、この間の事件の時みたいに・・・」 「確かに。盗撮されたアルトには同情が集まって隊長の威厳が失墜するって寸法だな」 「なるほど」 ならば、ルカの言うように直接オズマに誰かに恨みを買った覚えはないかと尋ねれば近道というわけか。 私たちはルカとともに、オズマのところへ行くことにした。 すれ違う隊員に居所を尋ねると、どうやらアルトの訓練を監督しているらしい。 我々四人がぞろぞろと歩いているのを見て、彼らは怪訝な顔をしたがキャシーが一緒のところを見て顔を綻ばせた。美人は得だな。少しだけむっとする。私がいることを忘れていないか? トレーニングルームへ足を踏み入れると、ちょうどシミュレータからアルトが出てきて、ヘルメットをとったところだった。すぐ側でオズマが腕組みをして仁王立ちしている。なにやら文句を言っているようだが、ミシェルといいオズマといい、アルトと言い争いをするのは日常茶飯事のことなので驚きもしなかった。よくもまあ、上司に向かってへらず口を叩けるものだと感心する。殴られようと怒鳴られようと、アルトの高慢チキな態度は相変わらずで、だが上手く時と場合によって使い分けているので要領がいいのだろう。 「隊長!」 ミシェルが声をかけると、ふたりはぴたりと口を閉ざして振り向いた。 「なんだおまえら、ぞろぞろと。どうかしたのか」 クランとキャシーまで、と怪訝な顔をする。確かに学生組の中に私やキャシーが一緒にいるのは珍しい光景だろう。 だが、ふとミシェルは立ち止まり、後ろに立つ私たちを見て眉を寄せた。声には出さずに、「どうしよう」と唇が動く。そうだ、アルトがいる。オズマだけを呼び出すのは何だかおかしいし、だからと言ってここであの画像を見せればアルトは激怒するだろう。面倒なことになる。 「隊長、アルト先輩の訓練は終わりですか?だったら僕、先輩に見て欲しいものがあるんです」 すかさず、ルカがにっこり笑って進み出た。 「ああ、今日はもう終わりだ。いくら無理したところでバカは治らん」 「なんだよバカって!!」 「まあまあ。先輩、じゃあシャワーご一緒します」 「ん、ああ。いいけど」 ちらりと私たちを見て、いいのかと確認するようにルカを見る。ルカはうなずいてアルトの腕をひっぱるとそそくさとこの場を去っていった。気が利くやつだ。 まだまだ未熟な部下ふたりの背を見送って、オズマは嘆息した。やれやれ、というやつだ。眉間に皺を寄せてため息ばかりついていると老けるぞ、と言ってやりたい。何度か、アルトがオズマのことを影で「おっさん」呼ばわりしているのを教えてやろうか。 「で、どうしたんだおまえら」 「オズマ・・・少佐。あの、これ書き込んだのはあなた?」 「ああん?」 キャシーが、ミシェルの端末のモニタをオズマに向けて指をさす。 オズマは顎ひげをさすりながらしばらくじぃっとそれを眺めていたが、やがて腰を伸ばして肩をすくめた。 「確かに投稿者は俺の名前になっているが、俺じゃない。そもそもまだその回覧見てないぞ」 「やっぱり」 投稿されている記事の内容は何の変哲もない、要望だった。オズマの性格上、そういったことは直接担当者に告げるだろう。彼をよく知るものならばおかしいと気づくはずだ。 「隊長のパスを使って誰かが書き込みをしてるんです。それだけでもじゅうぶん犯罪行為ですけど」 「ただのいたずらじゃないのか?」 「・・・それにしてはやりすぎ」 キャシーが辺りに誰もいないのを確認して、書き込まれたアドレスにジャンプした。 次に現れたパスワード入力画面にためらいもせず【SK01】と入れる。 「うわっ」 オズマは思い切り顔をひきつらせてあとずさった。 「おいなんだこれは!」 「これが問題になっているんです。念のため確認しておきますけど、これ写したの隊長じゃないですよね」 「んなわけあるかバカ!」 殴るぞミシェル、とすごむオズマに、ミシェルはへらっと笑って、ですよねー、と頭をかいた。 「誰かに恨みを買ったのか」 つい声に出してしまった。 全員がぱっと私を見るので、少しばかり居心地の悪い思いをしたが、誰もが知りたいことだろう。すぐにオズマへと向き直る。 オズマは癖のように顎の無精ひげをさすりながらううん、と呻いた。 「そう言われてもな・・・」 SMSは体育系のノリだし、殴り合いの喧嘩騒ぎなどは日常茶飯事だがそれをいつまでも引きずるようなナヨナヨした人間はいないはずだ。しかしオズマの性格上、彼の気にしていないところでトラブルを招いた可能性はある。 たとえば肩がぶつかっただけでも、オズマは気が付かなくてもぶつかられた本人は相当痛い思いをして医務室に駆け込んだかもしれない。 ランカのことに関しては細々とうるさいくせに、他人のことになるとまるで気にかけないまさに兄バカである。 「でもちょっと待って」 キャシーが、唇に人差し指を持っていって口を開いた。何だか大人の色気を感じさせる仕草だ。今度私も真似してみよう。 「アルト准尉も関係しているんじゃない?」 わざわざこんな写真を載せるくらいだし、という彼女の言葉に、それもそうだと全員がうなずいた。 シャワーを浴びに行くと言っていたふたりを談話室で待つことにして、私たちはオズマも一緒にぞろぞろと廊下を歩いていた。 前を歩くとオズマとキャシーがなにやら軽口を叩き合っている。なるほどかつての恋人同士か。それほどぎくしゃくしていない様子からすると、もう吹っ切れたのか、それとも表立っては分からない未練のようなものが存在するのだろうか。私にはまだ男女のことは分からない。 分からないといえばミシェルだ。 どうしてこうも女漁りに精を出すような男に育ってしまったのだろう。そんなことではジェシカが天国で泣いているぞ、と思いつつも、そのジェシカがいない寂しさを埋めるためなら私には何も言えないのだ。 悔しいことに、私は星の数ほどいるだろうミシェルの恋愛ごっこのお相手役は務まらない。 ばたばたと慌しい足音が聞こえて、立ち止まる。 すぐ前を走り去ろうとした男がひとり、こちらに気づいて足を止めた。 「あ、オズマ少佐!」 「ん?」 彼は整備士のようだった。汚れたつなぎに、軍手をしたままだ。 よほど慌てていたのだろう手にはスパナが握られていて、ここが街中であれば危険人物として即逮捕である。 「大変です」 「どうした」 まさか整備中に何か事故でもあったのかと、私たちは顔を見合わせた。 だがそうであればわざわざオズマを探す理由が分からない。 男は肩で息をしながら、オズマを促すように手をぶんぶん振った。 「落書きですよ落書き!少佐のバルキリーにあろうことかペンキで落書きされてるんです!」 「なんだとぉ!?」 オズマはいきり立って、整備士を追い越して走っていった。 「なんてことを」 キャシーもミシェルも呆然としている。 戦闘機乗りにとって、自身の乗る機体は生死をともにするパートナーなのだ。それを汚すことなど許されるはずもない。銃殺ものだ。 ともかく、私たちはオズマを追って格納庫へと走った。 途中、はじめの目的地であった談話室を通りかかる。 するとちょうどそこから出てこようとした他の隊員と鉢合わせになり、オズマはたたらを踏んだ。 「おっとすまん」 「ああ、オズマ!おまえ大変なことになってるぞ」 「バルキリーだろ!分かってる!今からいくところだ」 「バルキリー?いや違う・・・」 「なら後にしてくれ!今急いでるんだ!」 そう言って彼の話を遮り、彼は再び全速力で駆け出した。 「・・・いいのか」 ぽつりと呟く隊員を気の毒そうに見て、キャシーがそれに続く。 私は彼が何を言いかけたのか気になったが、ミシェルが急かすので仕方なく彼らに続いて走った。 ところで、どうして私まで走っているのだろう?そもそも、何をしてたっけ?段々分からなくなってきた。 格納庫に着いたときにはすでにオズマは自分の機体を見上げて佇んでいた。 一体どんな落書きをされたのだろうと同じように上を見て、思わずぷっと吹き出してしまった。 良かった、誰にも聞こえなかったようだ。 「・・・なあミシェル。誰かここで幼稚園児を保育しているのか」 「そんな話は聞いたことありませんね」 「だよなあ」 オズマは怒りを忘れてただ茫然自失の表情でぼんやりしている。 彼の乗る、イエローのラインが入ったVF-25Sの胴部分に、白いペンキででかでかと絵が描かれている。 これがへのへのもへじや単なる記号であればまだいい。バカだのカスだの低レベルな悪口だったとしてもまだ想定内だ。 だが、その落書きは非常に判断に苦しむものだった。 「・・・・このマークって」 「うんちマークだな」 「だよなあ」 よりにもよって、隊長機にうんちマーク。いくら白のペンキで描かれているからといって、どう見ても可愛らしいソフトクリームには見えない、見事なうんちマークだった。 「・・・少佐」 同じように困惑した表情で見つめていた整備士たちがぞろぞろと集まってきて、おそるおそるオズマに話しかけた。 「これは・・・一体」 ああそうだよな、反応に困るよな。 怒鳴ることすらできないでいるオズマに、おそらくこの時間の責任者なのだろう中年の整備士が帽子を取ってやる気のない敬礼をして見せた。 「このペンキはすぐに落とせますのでご心配には及びません」 「あー・・・。そうか。よろしく頼む」 「はい」 「なんか、すまんな」 何故オズマが謝る。 その場にいた者全員がそう思ったが、口には出せずにいた。 「これは明らかに隊長への嫌がらせですね」 「ううむ。本当に心当たりはないのかオズマ」 がっくりと壁に手をついて途方に暮れているオズマに、尋ねる。 「なあ、これってやっぱりあのSMS回覧の偽記事投稿者と同一犯だよな」 「あ、忘れてたわ」 うっかり、といった顔のキャシー。この女、本当にかつてのオズマの恋人か? 「しかしミシェル。格納庫では常に誰かが整備をしているし、誰でも出入りはできるが人の目が途切れることは少ないはず。そこへあのような堂々とした落書きができる者などこのSMS内でも限られるのではないか?」 「おっ、名探偵クランのお出ましか?」 「茶化すな」 にやにや笑うミシェルを睨んで、私は難しい顔で腕組みをした。 ところで、私は何をしていたんだっけか? PR |
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