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信じられないわ、と綺麗な顔を歪ませてシェリルは吐き捨てた。
美人が怒ると怖い、というのは身をもって体験しているミハエルである。 「まあとりあえず、犯人探しは後回しにして練習しないか?すぐに直るだろ」 「ええ、大したことないので大丈夫だと思います。それに・・・」 ほつれた袖口を確認しながらナナセが、首を傾げた。 「これ、人為的なものをあまり感じませんよね。もしシェリルさんに対する恨みだったり、このお芝居をめちゃくちゃにしようと思っている人がやったとしたらもっと修復不可能なくらいにズタズタにするはずです。このくらいではちょっと不愉快になるくらいで、芝居自体には何の影響もありません」 「ナナセさんの言うとおりです!」 びしぃっ、と手をあげてルカが賛成する。 おそらく、ナナセが何を言っても彼女の味方をするのだろう小柄な友人のことは放っておいて、ミハエルは人好きのする笑顔を振りまいた。 「そういうこと。心配いらないよ」 「べっ、別に心配なんかしてないわよ!それに嫉妬買うのには慣れてるの」 「嫉妬ねえ」 「なによ」 「別に」 確かに銀河の妖精として脚光を浴び、プライドが高くずけずけと物を言うシェリルの性格は、敵をつくることも多いだろう。それがすべて単なるやっかみだと言い放つ彼女の自信は、眩しいほどすがすがしい。 アルトは頬杖をついてぱらぱらと台本をめくった。 「なあ、それよりこのシーン、赤で線が入ってるけど何?」 「どれ?」 アルトのもつ台本を四人がのぞきこむ。 「あら、本当」 「なんでしょうね」 ナナセが眼鏡を押し上げながら目をぱちくりさせる。ルカはナナセしか見てない。 「ミシェル、おまえの台本もこうなってたっけ?」 「え?ああ、うんなってる」 「で、気付かなかったのか」 「えーと。まあ。でもほら、まだ先のシーンだし」 そういう問題かよ、とむっとしてシェリルを見たが、彼女は不自然に目をそらしてしまった。 何かある。 元役者としての勘が警報を鳴らすが、ふたりを糾弾したところで素直に返答が返ってくるはずもない。 (なんで俺の周りには面倒くさいやつらばっかり集まってくるんだ) その「面倒くさいやつら」の中に自分もきちんと入っていることには気づかず、嘆息した。 「その部分は差し替えになるのよ」 ふいに頭上に影ができて顔を上げると、豊満な胸を軍服で覆った美女がにこりと微笑んでいた。 「グラス中尉」 「調子はどう?」 稽古の様子を見に来たの、と言いながら、彼女はちらりと後ろを振り返った。 全員がつられてそちらを見ると、扉の影に隠れるようにして大柄な男が突っ立っている。 「うわ、オズマ隊長」 「なにしてるのよ。入ったら?」 キャシーが声をかけると、渋々といった様子でオズマが入ってくる。 「どうしたんですか隊長」 「いや、どうしたもなにも。こいつが様子を見に行きたいっていうから車を出しただけだ」 断じて、ランカの学校生活の様子が気になったわけじゃないぞ、と聞かれもしないことを言い出す。 ぷっ、と笑ってアルトとミハエルは顔を見合わせた。 「いつまでたっても元カノには敵わないんだ」 「シスコン」 「やかましい!」 おまえらトレーニング十倍にするぞコルァ、と拳を振り上げて威嚇すると、ふたりの部下はとたんに身をひるがえしてルカの背中に隠れた。 「先輩たち・・・」 仕方ないなあ、と、先輩よりも先輩らしい小柄な少年は苦笑いを浮かべた。 「それで中尉、差し替えってどういうことです?」 「うーん。今書き直ししているところなの。それさえ終われば決定稿を配れるわ」 「じゃあ稽古も本格的になりますね」 これまでは、変更予定のないシーンのみ稽古をしていたが、どうやらそろそろ全体を通して芝居をすることができるらしい。 何度も修正の入っている戦闘シーンや、ラブシーンなどがそれである。とくにラストは『アルト姫とシェリル王子の感動的なラスト』が曖昧な描写で描かれているが、そこはまだ仮の状態だった。どうやら誰かがいちゃもんをつけているらしい。 「ごめんなさいね、遅くなって。本当はちゃんと脚本が仕上がってからはじめてみんなに配るのが当たり前なのに」 「仕方ないですよ。それに長いから、できたシーンからでもちゃんと稽古始めておかないと」 いつまでたっても上映できませんよ、というミハエルの言葉に全員がうなずいた。 「そうだ、上映場所に天空門ホール抑えたって本当ですか?」 「え、まじかよ」 驚いた顔でアルトが呟く。 一学校の、一コース主催の催し物にしては少しばかり派手すぎではないだろうか、などと思ったが、よくよく考えればシェリルが主役をやる限り最初から話題にはなっているのだ。しかも不本意ながら「早乙女アルト」がお姫さま役とあってフロンティア船団内は大いに盛り上がっている。 「前夜祭を美星の講堂で行うらしいです。上映は多くの人が見に来れるようにって、学園長とジェフリー艦長、それに政府のお役人さんが話し合って、結局天空門ホールを手配したと聞きました。ああ、兄たちも楽しみにしてます」 嬉々として話すルカに、アルトは眩暈がした。 なんか、大変なことになっている。 PR |
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