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「これは・・・」
唖然として、アルト姫はぼんやりと壁に映し出された映像を見つめ息をのんだ。 薄汚れた単なる壁だったはずのそれに、大きな丸い光が浮かんだか思うとそこに見えるはずのない光景が広がっている。 「あれは、シェリル王子!」 いったいどういうことなのかと頬を紅潮させるアルトに、ミシェルは悠然と微笑みを返した。 「この魔法の石ですよ。これは離れた場所でも通信が可能な水晶石です。ただしお互いに持っていないと、一方通行では反映されません」 「つまり、あちらにいる誰かがこの石を持っているから、こうして映像が送られてこれるということですか」 「そのとおりです」 では、すでにシェリルの元にはミシェルの息のかかった者ががいるということ。それが今剣を振り上げて王子に挑んでいるのか、それとも間諜がはじめから軍に存在していたということだろうか。 アルト姫はぎゅっと胸元で拳を握った。 白い肌に細く青白い血管が浮き出る。 「すでに、戦いが始まっているのでしょうか」 「いいえ、よく見て下さい」 促されるままに目を向けると、確かに緊迫した空気は伝わってくるがそこに争いの気配はない。シェリルは従者の少年としきりに何かを探るようにあたりを警戒している。 「我々の出番はまだ後です。しばらく高みの見物と行きましょう。お腹はすきませんか?とっておきのワインがあります。お召し上がりになりますか、姫?」 「ふざけないでください」 「ふざけてなどいませんよ。ただぼんやり見ていてもつまらないでしょう?どちらにせよ、我々は・・・いえ、あなたは映像を見守ることしかできないのですから」 「何が起こるのですか」 「くだらない、喜劇が」 そう答えてミシェルは、眼鏡の奥で冷たい目を輝かせた。 アルト姫の背後では、やはり壁に小さな映像が浮かんでいたが、ミシェルはそれを姫に告げることなく興味なさげに目をそらして、すぐに消してしまった。 同時刻。 こちらの映像は届いているはずなのに、何のアクションもない。 レオンは内心の苛立ちを抑えながら、白煙の上る、それでいてやけに静かなひらけた場所へと視線を巡らせた。 「レオン様」 汗と煙で汚れた配下が、駆け寄ってくる。 「シェリル王子らはこちらへ向かってはいないようです。そのまま塔を目指しております」 「そうか。さすがに我々よりも姫の方が気になるか」 薄ら笑いを浮かべて、チリ、と紫の石を鳴らした。 ふわりとそれが輝き、大木の幹にうっすらと映像が映し出される。そこにはシェリル王子と彼が指揮する隊が、整然と、それでいて緊迫した面持ちで進んでいる様子が見て取れた。 「このまま塔へ誘い込め。背後からやつら【ゼントラン】のごろつきどもが襲撃することになっている。ある程度勝負がついたら、出て行けば良い。我々は高みの見物と決め込もう」 「では、予定通りに」 敬礼して去っていく兵を見送りながらレオンは苦々しく唾を吐き捨てる真似をした。 一体何をやっている。 合図と呼ぶには少々派手な煙を上げた。それをリアルタイムで知らせたにも関わらず、返事のひとつもよこさないとは。 「だが、まあいい。シェリル王子も、【ゼントラン】の連中も、共倒れしてくれれば全ては楽に事が済む」 シェリル王子を塔へ向かうための最速路へ導き、彼を囲う形でレオンが指揮する軍隊を配置する。その完了の合図を上げて、シェリル王子を背後から【ゼントラン】が襲撃する。彼の指揮する精鋭部隊は国王直属であり、この計画には最も邪魔な隊である。シェリル王子もろとも全て葬れば、国王が自由に動かせる兵の数はさらに少なくなるだろう。弱体化したトクガワ王にいつまでも付き従っていては、いずれはギャラクシーに取り込まれるか、力をつけた【ゼントラン】にクーデターを起こされるのは目に見えていた。ならば、その両方を相打ちさせればいい。 生き延びた方を、無傷の自分の兵が叩けば楽に物事は運ぶだろう。 そしてトクガワ王に報告するのだ。 「多大な犠牲を払いましたが、アルト姫は私が無事にお救いしました」と。 「なんとも悲劇だ。だがそれは美談となる」 国民というものは、やたら戦物語を美化したがるものだと、レオンは嘲笑った。 +++++++++++++++++++++++++++++ いやだなあ、まるで僕が悪者みたいじゃないか。 仕事の報告を終えて、芝居の進行状況について話をしていたキャシーに向かって、モニタの向こう側でレオンが軽やかに笑った。 「別に、ただのお芝居だからいいじゃない」 『ま、いいけどね。嫌われるのは慣れてるんだ』 でしょうね、という言葉をぎりぎり飲み込んで、しきりに今夜のスケジュールを聞いてくる男に曖昧に返事をすると、キャシーは通信を切った。 「・・・あいつまで参加させる必要はなかったんじゃないのか」 モニタに映らないように部屋の片隅で腕を組んでいたオズマが、眉間に深い皺を刻みながら言う。 キャシーはくるりと椅子を回転させて立ち上がると、肩をすくめた。 「お父様のお声がけがあったのよ。政府が協力しているってことをアピールしたいのね」 「たかが学生のお芝居、と思ったが結構大掛かりだな」 やれやれ、と首を振って、デスクの上に散らばる大量の紙を摘み上げる。 「で、結局ラストはどうなったんだ。できたんだろう?」 「今脚本家にチェックしてもらっている最中よ」 感動的なハッピーエンドなのは間違いないわ、と、キャシーは自信ありげに言った。 PR |
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