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「アイ君がいない?」
涙目になって慌てているランカをなだめるようにミハエルが背中を抱いて椅子に座らせた。 何事かと、アルトやシェリルたちも寄ってくる。 「そうなの。今日お仕事終わって、学校に来ようと思って車に乗ろうとして、バスケットに入れていたはずのアイ君がいなくなってて、それで探したんだけどどこにもいなくて」 いよいよぽろぽろ泣きだしたランカに、シェリルがそっと優しく髪を撫でた。 「大丈夫よ、きっとすぐ戻ってくるわ」 「シェリルさん・・・」 大好きな憧れの先輩の励ましに、ランカは涙をぬぐった。 「ありがとうございますシェリルさん。お稽古の準備邪魔してごめんなさい」 すっくと立ち上がってぺこりとお辞儀。 こすったせいでかすかに赤くなった目を瞬かせて、おそるおそる尋ねる。 「ここで見学していいですか?」 「もちろん!」 そろそろ修羅場なのよ、とシェリルは楽しそうにウインクした。 +++++++++++++++++++++++++++++++++++ 目の前にそびえる一本の塔を前に、シェリルは息をのんだ。ひどく古いその建物は古代の遺跡が朽ちずに取り残されたものなのだろうか。警戒して辺りを見渡したが、【ゼントラン】の兵たちがいる気配はない。それどころかしんと静まり返ったそこは森の中であるにも関わらず、いつの間にか鳥や葉ずれの音すらしなくなっていた。 ただ、地面を踏む馬の足音と、自分の息遣いだけが奇妙に響いて苦しい。 「あそこにアルト姫が」 ぽつりと呟いて、シェリルは軽い違和感を覚えた。 本当にあそこに姫がいるのだろうか。 そうであるならなぜ、【ゼントラン】の兵士がいないのか。 塔の中に隠れてこちらの様子をうかがっているのだろうか。 「どうなさいますか、王子」 ルカが落ち着きなく唇を湿らせながら聞いてきた。彼も何か妙な違和感に捕らわれているらしく、しきりに背後の兵士たちを気にしている。 「様子を見に兵を出しますか」 それとも、一気に門を破って急襲をかけるか。 どちらにせよ、塔の中に青の騎士がいるのならこちらの動きはとうに知られているはず。高いところから見下ろして嘲笑っているのかもしれない。 シェリルはきっと顔を上げると、背後に控える部下たちに、続け、とだけ言葉少なく命じた。 緊張に張りつめた様子のシェリルの背を少し離れたところから見ていたカナリアに、兵の一人がそっと近づく。 「どうする?」 「・・・第四の回廊付近までついていく。そこから先はひとりで行ってもらおう」 「あの従者は」 「こちらで身柄を押さえる」 「了解」 馬を降り、いつでも剣を抜けるように常に意識しながら、シェリルは先頭に立って門を開いた。すぐ後ろにルカが控え、その後にカナリアたちがついてくる。 「王子、危険です。まずは誰かに先を行かせましょう」 「いや、国王には私が自分で行くと言い出したのだから私が先頭を行かねばならない」 それは、シェリルの行動を常に見ている兵士たちへ対する虚勢でもあった。彼らは信頼に値する精鋭だが、自分はこの国の王子ではない。国王の命令で従ってくれているだけで、値踏みされているのは理解していた。 「大丈夫ですか、シェリル王子」 背後からカナリアの声がする。 どこか余裕を含んだ声に、シェリルは振り向かずにああ、とだけ答えた。 無様な姿を見せるわけにはいかない。 自分はアルト姫と結ばれるにふさわしい人物として、認められねばならないのだから。 一歩間違えれば崩れそうな階段を上り、延々と続く錯覚に襲われるほど長い回廊を早足で歩いてはまた階段を上る。 (この塔は何のために建っているんだろう。部屋があるわけでもない、ただひたすら階段があるだけだ。それも上の階へ続く階段は回廊をいちいちぐるりと回ったところにある。これじゃまるで・・・) 「ルカ、どうした。大丈夫か」 考え事をしていたためか、少し遅れたルカにシェリルが振り向いて声をかける。 「はい、大丈夫です」 ぱっと顔を上げて返すと、王子は少し笑ってうなずいた。 シェリルが大きく角を曲がり、一瞬姿を消す。 それに続こうと足を踏み出したところで、ルカはすぐ後ろに人の気配を感じた。 ぱしっ、と腕をつかまれ、何事かと振り返ると同時に強いアルコールのにおいを感じて、そのまま意識がもうろうとする。 「な・・・・?」 「悪いが、おまえはここまでだ」 やけに優しげな声はそう言って、崩れ落ちるルカの体を受け止めた。 (王子・・・・!) PR |
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