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「シェリル王子!!」
「あ・・・アルト姫!」 最上階にひとつだけ、あまりに貧相な扉を開けた瞬間、部屋の奥に浮かび上がるその姿に、シェリル王子は我を忘れて駆け寄った。 ルカの姿がないことも、後から続いてきているはずの兵たちがいないことも、そしてここが【ゼントラン】のアジトのはずであることも、すべてが真っ白になった。 「姫、ご無事ですか」 だが彼女の細い体を抱きしめようと手を伸ばした瞬間、ふとその姿が揺らいで薄くなった。 唖然と立ち尽くして、ああこれは幻なのかと王子は疑ったが、しかし姫は消えることなく、ただ寂しげに表情を曇らせていた。 ぺたり、と冷たい感触がてのひらを通して伝わる。ざらざらとした石の壁が、そこにはあった。 「これは・・・」 「ああ、やっとご到着ですか」 「きさま・・・」 緊迫した空気を破るように、余裕に満ちた声がシェリルの苛立ちを増幅する。 「青の騎士・・・」 アルト姫の背後から、長身の男が姿を現してわざとらしく頭を垂れた。 「ようこそシェリル王子。【ゼントラン】の幻惑の塔へ。長い長い階段の果てに姫と感動の再会をはたされたご気分はいかがですか?」 「ふざけるな!」 かっと怒りに顔を赤くして声を荒げ、腰の剣に手をそえる。 「どういうことだ」 尋ねる声が掠れて、震える。 やっと、姫を救い出せると思っていたのに。 なぜこんなにも遠いのか。 「何がですか?我々がそこにいないことが?それとも大切な従者の姿が見えないことですか?」 「・・・・きさまら、謀ったな」 「鈍いですねえ。聡明なギャラクシー帝国第2王子ともあろうお方が、今の今まで何も気づかなかったのですか?あなたを陥れようとした参謀閣下を引き受けて差し上げたというのに、礼のひとつもないとは」 見る間に、シェリルの顔が青ざめていった。 何も知らず、青の騎士のてのひらで踊らされていたことだけではない。 それを、姫に知られたというみじめさに、王子は崩れ落ちそうになった。 ああ、こんな情けない姿を見られるとは! 天井を仰ぎたい衝動に駆られたが、それでも王子はこちらを痛ましげに見つめる姫に無理やりほほ笑んだ。 「ここにいないのなら、そこへ私が向かうだけだ。ルカがいないのも、カナリアたちの姿がないのも、おまえの仕業か」 「もちろんです。あの賢い従者どのに危害は加えませんよ。我々は面倒な争い事は好みませんので」 ぬけぬけと言い放って、胸の前で手を組んで震えるアルト姫の腰を抱いた。 「あ・・・」 「どうでしょう王子。恥をかかされたその仕返しをしたくば、この俺と決闘をしませんか」 「な、何を言っているのです!」 ミシェルの腕から逃れようとつたない抵抗をしながら、アルト姫は叫んだ。 「姫はそこで見物なさっているといい。俺がこの床に膝をつけば、晴れてシェリル王子はフロンティアの次代女王陛下の婿に。あなたが剣を落とせば、アルト姫は俺の花嫁に」 「勝手なことを!」 自分の意思を無視して話を進めるミシェルに憤り、固く抱きしめたまま放そうとしない彼の腕を必死ではずそうともがいたが、青の騎士の鍛えられたそれはぴくりともしなかった。 「元よりあなたに選択権はないのです、アルト姫」 それも国王の娘に生まれた宿命なのでしょう、と。 憐れみに満ちたセリフとは裏腹に、青の騎士は意地の悪い笑みを浮かべて言った。 「勝利者には姫君の唇を奪う権利を」 ++++++++++++++++++++++++++++++++ 「最悪だ」 「ひ、ひどいです!」 ぽつりとつぶやいたアルトに呼応するように、ランカは顔を赤くした。 「そーお?おもしろいじゃない。やっぱり決闘は必要よ」 「台本にないこといきなりするなよな!しかも通してリハやるの、これが最後なんだぞ!どうするんだよ!」 「なに怒ってるんだよ姫」 「姫って言うな!」 顔を真っ赤にして拳を握るアルトに、ミハエルとシェリルは互いに顔を見合せてうなずき合う。 「きっとキャシ・・・グラス中尉もおもしろいって言ってくれるさ。もともと決闘シーンはあるんだし」 「そうよ。ちょっと盛り上げただけじゃない」 「ふーざーけーるーなぁぁぁぁ!!」 「勝った方が勝利のキス?でも結局これ、シェリル王子とアルト姫のハッピーエンドって決まってるのよ」 「知ってますよ」 でも、必ずしも決闘に勝った方が姫と結ばれるとは限りませんよね、と。 青の騎士、もとい眼鏡のスナイパーはにやりと笑った。 PR |
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