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「何で青の騎士なんだ?黒じゃなくて」
変なの、と台本を指で弾いてぼやくアルトに、同じテーブルに座っていたキャシーがにこりと笑う。 「本当はもっと裏設定があるの。ゼントランの騎士ミシェルが青の宝玉と呼ばれるものを剣に埋め込んでいて、魔法が使えるって設定だったんだけど・・・」 「へええ。恋愛小説だけじゃなくてファンタジーも好きなんですね、グラス中尉は」 感心したようにミハエルが言う。 SMSの食堂で、彼らはできたばかりの脚本を見ながら談笑していた。 オズマは興味なさげな顔をしているが、愛しの妹が主題歌を担当していると聞き、人ごとではないと思っているようだ。 「あんまり尺が長いとお芝居にならないから、削ったのよ。小説ならともかく演じるには時間の制約があるでしょう?」 「確かに」 「だから、無理やりマントの色を青にしたりね」 芝居の台本を書いたことのない彼女は、とりあえず自身の持ちうるかぎりの文章力を駆使して一本の小説を書き上げた。 それを、芝居に精通しているプロに脚本化してもらったのである。 「確かにミシェル先輩は黒って感じじゃないですもんね」 「そうそう。俺のイメージカラーは爽やかなブルーだもんな。青春だろ」 「爽やかねえ」 よく言う、と鼻に皺を寄せてアルトが言い捨てた。ブルーレンジャーに謝れ。 「で、結局青の騎士と姫君のキスシーンは追加したんですか?」 無邪気に尋ねるルカにアルトがぎょっとして肩を揺らすと、キャシーは無表情で、読めば分かるわよ、とだけ答えた。 ********************************** 待て、と叫んで、シェリルは大階段を駆け上った。 だが人ひとりを抱えているにも関わらず、青の騎士は風のように走り去ってしまい、二階についた頃には姿が見えなくなっていた。 「おのれ・・・!ルカ!ルカどこだ!」 「はい、王子、ここに」 主人の尋常ではない声音に驚いて、混乱する人々をなだめていたルカが走り寄った。 「アルト姫が侵入者に連れ去られた。すべての部屋を確認する。おまえは右側を。私は左側を順に見ていく」 「かしこまりました」 国王が、静まれと怒鳴るのが聞こえる。 兵の怒号も客の動揺も少しずつ沈静化していったが襲撃したものをとらえたという報告は聞こえなかった。 (あの男ひとりで?馬鹿な) しかし考えている暇はない。 シェリルとルカは手分けして二階の部屋を素早く見て回ることにした。 「姫・・・!」 月明かりだけが、頼りだった。 姫を抱きしめていた腕をはなし、窓を開けて外の様子を伺っている青の騎士に、アルト姫は二歩ほどあとずさったまま動けずにいた。 きっと逃げることは不可能だろう。大丈夫だ、シェリル王子が助けに来てくれるに違いない。 だが、もしふたりが戦ったとしてシェリルが怪我をしないとは限らない。 ぞっとして蒼白になった姫に気づいた青の騎士は、穏やかな笑みを浮かべて見せた。 「恐がらなくていい。無理やり女性をどうこうする趣味は俺にはないからね」 「・・・どうこう、とは?」 先ほどとは違って、意外と優しい目をする男にほんの少し安堵して尋ねる。 すると男はとたんに、困った顔をして苦笑した。 「おやおや。さすがは箱入りのお姫さまだ。俗っぽい言葉には縁がないと見える」 「何をおっしゃっているのか、分りません。私をどうするつもりですか」 「むろん」 大股で歩み寄り、思わず逃げようとした姫の細い腕を掴んで引き寄せた。 「あなたを俺の花嫁にするに決まっている」 「姫、どこですか!返事をしてください!」 廊下からシェリル王子の緊張した叫び声が聞こえて、アルト姫は大きく息を吸った。 大声を出したことなど生まれてこのかた一度もないが、きっと届くはず。 だが、声を出そうとした瞬間背後から腕がのび、口をふさがれた。 「んんっ・・・」 腕を掴んで必死で振りほどこうと抵抗するが、姫君の力が適うはずもなくがっちりと抑え込まれ、背中にどくどくという男の鼓動を感じて震えた。 「お静かに」 耳元で騎士がささやく。 その湿った熱い吐息に、アルト姫は喉の奥で悲鳴をあげた。 青の騎士は姫の口をふさいで拘束したまま窓へとあとずさり、左手で枠を掴んだ。 おおぶりの木の枝が張り出しているのを確認して姫の口から手を外すと、枝を掴んで姫の腰を抱いたまま一気に窓枠へと飛び乗る。 「っ!!」 「失礼」 そうして、枝に飛び移るのと部屋の扉が荒々しく開かれたのはほぼ同時だった。 「アルト姫!」 髪を振り乱しシェリル王子が現れる。 だが彼が見たのは、いままさに枝から飛び降り庭を駆ける青の騎士と、それに腕を引かれた婚約者の姿だった。 PR |
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