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【2025/04/20 11:44 】 |
レジェンド・オブ・フロンティア 第5章
 稽古の休憩中、アルトはハリボテの壁に寄りかかって座り込んだ。
 動き辛い服で芝居をするのは慣れているが、それでも暑い。それに髪が鬱陶しかった。
 やれやれ、と嘆息しながらペットボトルの水を飲んでいると、さきほどまで真剣にスタッフと打ち合わせをしていた青の騎士ことミシェルが近寄ってきた。
 芝居の最中のきりりとした顔とは打って変わって、にやにやしている。
 本当に嫌味な笑顔だ、とアルトは彼をきつく睨んだ。
 むろん、化粧して女装している自分が威嚇したところで滑稽でしかないことは承知している。なんて忌々しい。

「よ、アルト姫。ご機嫌麗しゅう」
「麗しくねえよ!あっちいけエセ騎士め」
「ひでえなぁ。なあ姫、さっきのあれって、本当に演技?」
「はあ?」

 何のことだ、と聞き返す。ミシェルはますます笑みを深くして、座り込むアルトを腰を屈めて見やった。

「腰に手ぇまわして耳元で囁いてやったろ。あのとき震えたのは芝居か?」

 それとも、とわざとらしく艶っぽい声で、

「素で感じたとか?」
「んなっ」

 何くだらねえこと言ってやがる、と、顔を耳まで赤くして立ち上がる。
 ふわりとドレスの裾が揺れてリボンをこしらえた茶色のブーツがちらりと見えた。
 けらけらと笑うミシェルを怒鳴ろうと息を吸ったところで、カツカツとヒールの音がしてシェリルが現れる。

「あら、楽しそうね」
「やあ王子様」

 ミシェルが芝居がかった仕草で恭しく礼をする。
「私の姫をさらった不届き者が、何故そんなに嬉しそうな顔をしているのかしら?」

 口元は笑っているが、目が本気だ。何で怒っているんだ、とアルトは不思議に思ったが、余計な口出しをして面倒ごとに巻き込まれるのはごめんなので黙っていた。

「そりゃあ・・・王子からお姫さまを奪い取るのに成功したからですよ」
「ふうん。いい度胸じゃない」

 おもしろいわ、と、両手を腰にやって胸を張る。
 ふたりの間に火花が散ったように見えた。



**************************



 トクガワ王は、愛娘が青の騎士にさらわれたと聞いてすぐさま追手をさしむけるべく軍を編成した。
 シェリル王子を責めることはしなかった。
 あの状態で、彼女をさらった犯人を特定しただけでもその功績を讃えるべきだった。ましてや守ろうと剣を抜いたのだ。それはあの混乱の中でもふたりの姿をとらえた一部の兵からも証言されている。
 シェリル王子はみずからすすんで軍を率いることを打診した。

「しかし、こう言っては何だがあの連中のことはわがフロンティア国内の問題なのです。それにあなたは隣国の大事な客人。危険な目に巻き込むわけにはいかない」

 苦悩の表情を抑えて穏やかに拒否する王に、だがシェリルは引かなかった。

「お願いです。私はこの手で彼女を救いたいのです。俗な言葉ではありますが、惚れた女性ひとり救えずして誰が領地の民を守ることができましょうか」
「シェリル王子」
「無事に姫を救いだしたならば、正式に私を姫の婿として迎えて頂きたい。我が身にかえてもアルト姫を取り戻してご覧にいれましょう」
「・・・。それほどまでに言うのなら、任せよう」

 ようやく国王はうなずき、部下に命じて王子が必要とするものすべてを早急に用意せよと命じた。

「青の騎士とはなにものです」

 まずは敵を知らなければ話にならぬ、とシェリル王子が詰め寄ると、国王は疲れた表情で片手をあげて、彼を応接間へ案内するよう召使に命じた。
 人前ではおおっぴらにできない事情があるのだろう。そう直感し、シェリルはイライラと急く気持ちを抑えながら落ち着かない足取りで従った。
 赤く燃える暖炉を横目に、固く両手を握り合わせて目を閉じる国王の言葉を待つ。
 やがて王は人払いを命じると、側近のものをひとりだけ戸口に立たせて口を開いた。

「一見平和に見えるこのフロンティアだが、他国同様反乱分子はそこかしこに存在しておる。その中で最も象徴とされているのが【ゼントラン】と呼ばれる無法者たちだ。彼らは貧しい民から兵士くずれまで幅広いものたちをとりこみ、今や最大勢力とされている。そして彼らを束ねるのが・・・」
「青の騎士、ですか」

 シェリルはあの冷たい緑色の瞳を思い出し、再び腹わたが煮え繰り返る怒りを感じた。
 あの、余裕の笑み。見かけに寄らず力強く、姫を抱きよせた腕。無駄のない動きはよく訓練された兵士のものとなんら変わりはない。もしかすると元軍人なのではないか。

「名をミシェルと言う。本名かは知らぬが、若くして数千、数万とも言われる勢力を率いる切れ者だ」
「なぜ討伐されないのです」
「・・・それは」

 シェリルの当然の疑問に、王はため息をついた。

「彼らの中には今や絶滅危惧種と言われている巨人族も少数だが存在している。巨人族ひとりの戦闘能力は、人間が束になってかかっても揺るがぬ」

 それきり、出立の準備ができたと部下が報告にくるまで、王は沈黙を続けた。
 国王も巨人族の末裔なのだろう。
 同じ種族同士、それも絶滅寸前のものたちがが敵対するという悲しみに、シェリルは慰めの言葉ひとつ思い浮かべずにいる自分を恥じた。




 気がつくと空を覆う大きな天蓋に見下ろされており、アルト姫は驚いて半身を起した。
 とっさに悲鳴を上げなかったのはあたりがひどく静かだったからだろうか。
 薄暗い部屋は枕もとのチェストに置かれた燭台だけでは照らし切れず、四方には闇がひそんでいる。どこに扉があるかもわからない。唯一、錆びた枠がとりつけられている窓が月のあかりを阻まずにいてくれて、それだけでほっと安堵した。
 ぼんやりと浮かび上がる壁は色がはがれて岩がむき出しになっている個所も多く、荒れた印象を与えた。
 ただ大きなベッドだけが新しく清潔で、体を包み込む毛布は一級品だった。
 ふと、いまさっきまで頭を沈めていた枕を見ると白い花弁が無残に押しつぶされており、それが髪を彩っていた飾りであることに気づくまでに多少の時間を要した。
 結っていた赤い髪紐の姿はなく、内心ひどく焦ったがそれも枕の下に見つかってそっと手に取った。亡くなった母の形見である。
 ゆっくりとベッドからおりて、体に何の変化もないことを確認したところでアルト姫は途方に暮れた。
 素足で床に降りる不安すらどこかへ行ってしまった。
 ここはどこなのだろう。
 あの得体のしれない恐ろしい騎士に腕をつかまれ枝から飛び降りたところで完全に意識は途絶えてしまっている。
 シェリル王子は必死に名前を叫んでくれていたというのに。
 なんて、情けないのだろう。
 知らず知らずのうちに、涙が零れ落ちた。
 





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【2011/10/24 21:34 】 | レジェンド・オブ・フロンティア | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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